これがこの本を読んだ最初の感想です。ほんと罪作りな本です。
それほど、この本に書かれている「本の読み方」は価値あるものだと思います。
良質なアウトプットを作り出すには、良質のインプットが必要とよく言われます。インプットを増やすには、普通たくさん読むことが考えられますが、本書のアプローチは逆に一冊の本から最大限の情報を得るにはどうしたらいいかということに焦点をあてています。
「一冊の本を、価値あるものにするかどうかは読み方次第である。」
これが本書の冒頭に書かれている言葉です。
情報が洪水のようにあふれ、それを処理する“スピード”が求められる現代、そんななか速読で10冊の本から得た知識よりも、あえて遅読(スロー・リディング)で1冊の本から得た知識のほうが、5年後、10年後の人生には役に立つというのが著者の主張です。遅読は知読になると唱える、アンチ速読の読書法です。
具体的なスロー・リーディングのテクニックは本書に譲るとして、単純に実際に筆者の分析例を読んでみるだけでも非常に勉強になります。学生時代に誰もが一度は読んだことのある夏目漱石の「こころ」や森鴎外の「高瀬舟」。そんな本にも今まで気づかなかった仕掛けがあったのかと、著者の分析に驚かされます。
例えば『こころ』の中に
「先生先生というのはいったい誰の事だい?」
という兄の問いかけの一文で始まる章があるんですが、この疑問自身がある仕掛けになっているのです。この解説を読んだとき「なるほどそういう意味もあったのか」と素直に感動しました。詳細はぜひ本書を一読ください。他にもそのような意味がこめられていたのかと改めて気づかされること請け合いです。
インプットの手法を増やすこと、とくに有益な情報源である本の読み方を研究するのは、知的生産技術にかかせません。工夫次第で読書は何倍にも楽しくなるんだと、この本を読んで実感できました。読み方の幅を広げるという意味で本書はぜひ読んでおきたい一冊と言えます。
タイトル:本の読み方
副題:スロー・リディングの実践
著者:平野 啓一郎
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